2020年9月22日火曜日

一畑電車 デハニ50体験運転記

 一畑電車で長らく活躍してきたデハニ50は営業運転を終えて久しく、現在は体験運転用車両として動態保存されている。こんな骨董品的車両に乗れるだけでなく、運転体験までできるとあれば行くしかない。ということで鉄旅の先輩であるJ氏とともに雲州平田駅へと向かった。

参加したのは夕方の部。夕日を浴びたデハニ53がそこにはあった。これを自分のコントロールで動かすのかと思うとゾクゾクする。写真に写っている方は今回指導して下さった松本さん。


古い車両らしく大きなテールライトを備えている。連結器は自動連結器である。以前はバラスト散布の無蓋貨車を引き、工臨としての活躍もあった。現在この仕事はレールトラックによって行われているそうだ。


車庫の脇にある研修室で運転の講義を受け、いざデハニへ乗り込む。何とこの回は私とJ氏の2名のみという貸し切り状態であった。


ロングシート以外はほぼ原型を保っているようで、木製の柔らかい雰囲気に包まれるが如く。遙か昔に鶴見線で乗ったクモハ12もこのような車内だった気がする。こんな骨董品のような車両を運転出来る日が来るとは夢にも思わなかった。

こちらが運転台。配管がむき出しになっていて、どこがどこへと繋がっているのかが一目瞭然である。メンテナンスがしやすいようにという工夫なのかもしれない。

ここに座って運転する。写真上にあるマスターコントローラを引くと加速する。構内運転で低速走行しかしないため、加速は一番下のレベルまでしか出来ないようになっていた。2つのメーターを挟んで手前側にあるのがブレーキである。ブレーキハンドルを差し込んで操作する。

J氏が先に往路を運転し、私が復路を運転することになった。緊張の瞬間である。「出発進行」と一声し、ブレーキ圧を抜いてマスターコントローラを回す。吊り掛けの轟音とともにデハニがゆっくりと走り出した。第1回は奇跡的にブレーキ操作が上手くいき、ピタリと停止位置へ止めることができた。いやはや嬉しい。松本さんとアテンダントさんが褒めてくれるので尚更である。


お次は往路を運転する。今回も上手くいくかどうか・・・ゆっくりと走り、Bマークのあるブレーキポイントを過ぎたらブレーキ圧を1kgf/cm2に高める。


Bマークが見えた。ここだ!とばかりにブレーキに圧をかける。線路内に貼ってある停止目標でしっかりと止まれるだろうか。結果は残念でかなり手前で減速してしまい停止位置手前で止まってしまった。電車でGOならば減点だっただろう。ブレーキ圧が1kgf/cm2まで達したら、即座に「圧を保持」の位置へブレーキハンドルを変えるのだが、古い車両とはいえ空気が込まれるのはあっという間で、この保持に切り替えるタイミングを見極めなくてはならない。頭では分かっているつもりでも、中々難しいモノである。指導してくださった松本さん曰く、これが2両編成となるとブレーキのレスポンスが遅くなるので、操作が難しかったのだそう。


J氏が運転している間は動画を撮ったり、車内を撮影したりとこれはこれで忙しい。この車内に居ることが常に楽しいのだ。こんな鉄人の心を鷲掴みにするイベントをやってくれるとは一畑電車、最高である。写真の銘板を見るとデハニ53は昭和4年製とのことで、2020年現在で御年92才となる。


運転は一人4回(合計2往復分)できる。J氏と楽しんだこの時間は文字通りあっという間に過ぎていった。


つり革には昔の広告がそのまま残っていた。一畑パークとは、過去に存在した遊園地とのこと。

二人の運転回が終わるころには、日はとっぷりと傾いていた。ニス塗りの木目が光る車内は薄暮の時間帯になると、一層の雰囲気が引き立っていた。

最後に指導の松本さんが一番奥の位置にピタリと止めて終了する。この絶妙なコントロールは神業のようであった。

体験運転がこれほど面白いとは思わなかった。自分の操作で吊りかけ駆動の電車を動かし、込め、保持、解除のブレーキコントロールで止める。これがテクニカルで実に面白いのだ。この操作の面白さは旧型の電車だからこそだろう。一畑へ行く際には是非とも体験して頂きたい。

懇切なご指導とサポートを頂いた、一畑電車の松本さん、アテンダントさんにこの場をお借りして感謝申し上げます。


J氏撮影の写真(Picture from J氏)の使用、転載はお断りします。

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