2019年10月5日土曜日

富山地鉄「アルプスエキスプレス」乗車記

富山地方鉄道の観光特急「アルプスエキスプレス」は西武鉄道で活躍していたレッドアロー号こと西武5000系を譲り受け、改造したものである。長らく活躍してきたこの車両が第二の転機を迎えたのは2011年。第二編成のリニューアル工事が施され、アルプスエキスプレスとして生まれ変わったのだ。この車両は下回りが国鉄485系のものということで、段々と貴重になってきたMT54電動機のサウンドを楽しめる車両でもある。


今回乗車したのは、特急アルペン号。この特急が面白いのはその走行ルートで、中心駅の富山駅にやって来ず、宇奈月温泉駅から直接立山駅へ向かうという、温泉客を観光地へ運ぶ輸送に特化している点である。途中の上市駅、寺田駅で2回の方向転換、千垣橋梁、最後の急こう配を経て立山に至るルートは変化に富んでいる。


出発は宇奈月温泉駅。16010形の第二編成は、水戸岡鋭治先生のデザインによって生まれ変わり、アルプスエキスプレスという名前をもらっている。外観はレッドアロー号時代のカラーリングを活かしており、ヘッドマークステーもそのまま使われている。西武時代にお別れ乗車した自分にとっては、当時を思い起こさせる嬉しい再会となった。


特急アルペン号のヘッドマークは編成の前後で絵柄が異なり、1号車側が黒部湖と北アルプス、3号車側が黒部ダムとなっている。

宇奈月温泉駅で発車を待つ、アルプスエキスプレス号立山行き。この日は雨模様ということもあってか、乗客は少なめであった。

レッドアロー時代は前面展望は見られなかったと記憶しているが、富山へ来て運転室との仕切りが変わったようだ。鉄旅好きにとっては、前面展望が楽しめるという点は実に有難い。

車端部には「西武所沢車両工場 昭和45年」の銘板がしっかりと残っている。2019年で実に製造後49年を数えるが、特急列車から普通列車まで獅子奮迅の活躍をしている。アルプスエキスプレスこと16010形第二編成は、西武時代にお召し列車充当という栄えある経歴を持っている。

こちらは先頭車両の車内。内装はモデルチェンジして、木目調の床と目の細かいデザインの座席になっていた。明るく、また落ち着ける車内である。

ドアから車端部側のスペースにはお洒落なカウンター席が3席設けられている。

このカウンター席にはドリンクホルダーが設けられていて、利用者への気配りが嬉しい。手前の細長い穴も何かの目的があるのだろうが、これについては未だに推察中である。

メインとなる真ん中の車両は団体さんが乗っていて盛況であった。ここには車内販売のカウンターがあり、飲み物やグッズなどを買える。乗車時はコーヒーがとても人気で、走行中にコーヒーを注文しに行ってみたら予め準備された第1陣は売切れとなっていた。次のコーヒーを準備するまでお待ち下さいとのことで、この盛況さには嬉しい限りであった。

2号車の車内はご覧のとおり。多くの観光客が思い思いの時間を過ごしていた。車内に足を踏み入れた瞬間に、素敵だと思える、楽しい旅行ができると思える列車である。やはり水戸岡先生のデザインは凄い。この車両が無かったら、この団体さんご一行はバスで立山へ向かっていたのかもしれない。


アルプスエキスプレス号は宇奈月温泉から坂を下り、黒部であいの風とやま鉄道と交差する。黒部では富山地鉄が上からまたぐ。


西魚津で、またあいの風とやま鉄道とクロスする。今度は富山地鉄が下となる。

16014形、中滑川駅付近の走行車窓。(2:38)
0:55、1:34あたりの減速時は、まさにMT54らしい音がする。

コーヒー第二陣が出来たようなので買ってみた。列車の中で買い、車窓を眺めながら飲むコーヒーは格別である。実に美味い。


列車は寺田駅へと到着した。この列車は上市駅、寺田駅で合計2回の方向転換をする。寺田駅では本線上に停止して方向転換をするので、先頭にきて観察してみた。


停車中の寺田駅から富山方を見る。出発信号は赤になっているが、その下にある入換信号機については、進行の指示(斜め表示)となっていて、列車はしずしずと発車する。


立山線と合流し、ゆっくりと富山方へ進んでいく。


「4」という数字が見えるところは4両編成の停止位置ということなのだろう。3両編成のこの列車はその標識のあたりで停止した。


運転士さんが逆側へ映り、列車の向きが逆向きとなる。そして立山線の線路へと入っていく。


寺田駅の立山方面ホームでは旅行者の女性達が列車へとカメラを向けていた。寺田駅からの乗客はこの2名であった。


時刻表上では寺田駅に7分停車となっているアルペン特急。しかし、実際は転線のための入換をするための時間であり、中々面白い時間であった。


寺田駅からは立山へ向けて徐々に高度を上げていく。車窓に映る田んぼは段々になっている。


この列車でやってみたかったことに、センヌキの利用があある。嬉しいことにアルプスエキスプレス号のテーブルにはセンヌキが残されている。


2号車の売店で、黒部の泡水というサイダーを買ってみた。販売のお姉さんに「蓋を開けますか?」と聞かれたが、テーブル備え付けのセンヌキを利用するために、あえてそれを断って購入した。

センヌキで瓶の王冠を外す(0:10)


これが蓋を開けた直後の状態。王冠がひしゃげているのがわかると思う。備え付けのセンヌキは実に便利だ。王冠つきの瓶ドリンク「黒部の泡水」が車内で売っているので、アルプスエキスプレスに乗車すればセンヌキを使うチャンスが得られる。


列車は立山線のハイライト、千垣橋梁を渡る。ゆっくりゆっくりと渡ってくれたので、落ち着いて写真を撮ることができた。


立山駅の近くまで来ると常願寺川の流れは急になってくる。列車もきつい勾配を上っているのだろうが、MT54は力強く回転して、あっさりと走って行く。


そして終点の立山駅へと到着する。運賃表がほぼ全て点灯しているのは、これが特異な区間を走るからだろうか?


終点の立山駅へと到着したアルプスエキスプレス号。早速ヘッドマークが外され、普通列車の電鉄富山行きへと変身した。


アルプスエキスプレス号こと16010形の旅は実に快適で面白かった。出身の西武では後輩のNRA10000系が引退しようとしているなか、先輩であるレッドアローは末永い活躍を期待させていた。

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